プロジェクトストーリー モッチッチ

山川大輔 佐藤諒
  • <商品開発担当> マーケティング部
    商品開発グループ
    山川 大輔

  • <麺担当> 開発研究室 滝野研究室 佐藤 諒

地道な研究が生み出した独自の製法

豊かな自然が息づく兵庫県加東市。エースコックの商品に使用される麺の開発はすべて、ここ加東市にある滝野研究室で行われる。研究チームのメンバーには、新商品に使用する麺の開発に加え、それぞれに技術開発テーマが与えられ、主力メンバーである佐藤は、2011年から「フライ麺でおいしい商品を作る」というテーマのもと、まったく新しい製麺技術の開発に取り組んでいた。

おいしさの定義は人それぞれだが、一般的にフライ麺はスナック志向、ノンフライ麺は本格志向と言われ、フライ麺にはジャンクなものという概念が根づいている。とはいえ、ワンタンメン然り、スーパーカップ然り、圧倒的人気を誇るロングセラー商品はほとんどがフライ麺。そこで、フライ麺ならではのジャンクなおいしさはそのままに、ノンフライ麺のような本格的な食感を持つこれまでにない麺を作ろうというのが、佐藤に与えられたテーマの真の狙いだ。

佐藤が最もこだわったのは、これまでにない新しい食感。そこで、麺を作る工程に真空状態にする過程を加えて麺の密度を上げ、さらに、水分の多い多加水麺にすることでモッチリとしたかみ応えとツヤのある食感を実現した。その食感にこだわるあまり、同じチームのメンバーをはじめ、営業や役員からは「ゴムっぽい」という意見が出ることもあったが、その都度、改良・試作を繰り返し、2014年夏、ついに完成の手応えを得た。

おいしさの追求と技術の向上にゴールなし

麺の完成が見えはじめた頃、マーケティング部を管轄する役員からある意見が飛び出した。
――この麺を焼そばとして売り出してはどうか――。当たり前のようにラーメンをイメージして技術開発に取り組んできた佐藤にとっては思いがけない発想だった。当時の思いを佐藤はこう振り返る。

「即席麺業界はやはりラーメンが主流で、焼そばの市場規模はそれほど大きいものではありませんから、手間と時間をかけて新しい技術を生み出し、多額の費用をかけて製造ラインを整えるのに、本当に焼そばでいいのか、という驚きはありました。けれど、私たちは一つの商品のためではなく、技術の底上げのためという意識で技術開発に取り組んでいます。ですから、焼そばと言われるなら焼そばでやってみましょうという感じで、意外とすんなり納得できるものなんです」。

研究室での試作が終われば、次はそれを製造ラインに落とし込む作業が始まる。新たな設備の開発も含めて、製造ラインを組み立てるのだ。

「まず、機械メーカーさんとの打ち合せに何年もかかりましたし、機械を導入して生産が始まってからも、何かしらトラブルが起こりました。また、研究室での試作を工場レベルにスケールアップする作業でもなかなか再現性が取れず、当時はあらゆる苦労が同時に押し寄せてきて今にも溺れそうでした(笑)。けれど、自分が開発した麺だから、結局、答えを出せるのは自分しかいない。プロジェクトの進行にも影響を与えてしまって気持ちが折れそうになる瞬間もありましたが、この技術に関しては自分が一番詳しいんだという意識とプライドで心を奮い立たせていました」と佐藤。

おいしさの追求と技術の向上にゴールはない。2017年6月に発売され、人気商品に成長した今も、湯戻しの時間を5分から4分に短縮するなど、「麺質の向上」という佐藤の挑戦は続いている。

既成概念を覆す新たな市場の創造

新しい麺が完成し、焼そばとして商品化することが決まった2014年夏、商品開発の山川らが召集され、プロジェクトが本格的にスタートした。テーマは、既成概念にとらわれず、これまでにない新しい市場を作ること。そこで、ターゲットを20〜40代の女性と設定し、商品名もパッケージデザインも従来のカップ焼そばにない斬新なものという方向で商品づくりを進めると決めた。

事前の市場調査で、「女性は、茹で麺や蒸し麺タイプの焼そばを家で調理して食べたり、店で食べることはあっても、カップ焼そばはあまり食べない。全く食べないという人も多い」ということが明らかになっていた。焼そばを食べないわけはない。カップ焼そばを食べないだけなのだ。ならば、勝機は十分にある。新しい麺で手づくりに近い味と食感を表現し、それを手づくりよりずっと簡単で手軽に食べられるカップ焼そばにすれば絶対に売れる―――山川らはそう確信していたのだ。

まず初めに取りかかったのが、味の決め手となるソースの開発。世の中のありとあらゆる焼そばをメンバー全員で試食し、従来のカップ焼そばの「濃い」「油っぽい」というイメージを一新すべく、互いに意見を出し合い、女性に好まれる味を目指した。そして、何度も試作を繰り返しながら、野菜と果実で甘みをつけ、カツオの旨味を利かせたこれまでにないやさしい味わいのソースを完成させた。

ある程度の味が固まった時点で、ターゲットである20〜40代の女性を中心に、老若男女を集めた消費者調査を実施。良いも悪いもさまざまな意見が出たが、最も狙っていた麺の違い=生麺っぽさについてはポジティブな反応がほとんどで、確かな手応えを掴むことができた。

自らの信念を貫く難しさと大変さ

一方、このプロジェクトで最も難航したのが、商品名やパッケージデザイン、味の表現方法など、味づくり以外の部分における社内の意見調整だったと山川は振り返る。

「カップスリーブを巻いたカフェのコーヒーをイメージしたデザインも、モッチッチという名前も、従来のカップ焼そばの世界観とは全く異なるものだったので、社内では『これで本当に消費者に伝わるのか?』という心配の声や反対意見も多かったです。そういう意見を聞くと気持ちがブレそうになるのですが、消費者調査でポジティブな反応も出ていたし、自分たちがやっていることを信じるしかない。このプロジェクトを通して、自分の信念を貫く難しさと大切さを学びました」。

サンプルが完成した際には、山川ら商品開発とマーケティングのメンバーが全国の営業所に足を運び、営業の商談に同行して生麺の焼そばと食べ比べてもらいながら、商品の魅力を小売店に直接伝えた。「麺が違う」「カップ焼そばにはない斬新なデザイン」などと好意的に捉えてくれるバイヤーも多く、2017年6月の発売当初には、各地の小売店で消費者の目につきやすい主通路に面するエンド棚に陳列された。狙い通り、購入者は20〜40代の女性が中心だったが、高齢層の購入者も多く、それはうれしい誤算だった。

今や通常の棚に置かれる人気の定番商品となり、「新しい商品で新しい市場を創り出す」というプロジェクトは大成功で幕を閉じた。

「私自身、カップ焼そばを担当したのも、1からブランドを立ち上げたのも初めてで、とにかくすべてが大変でしたが、その分、楽しいことも多かった。結果が出たことで自信もつきました。デザインや名前などをこだわりぬいたからこそ、今回の成功があったと思います。また次、新しいブランドを立ち上げるときには、今回以上の大きな成功を目指しますよ」。

山川らに立ち止まっている暇はない。一つの成功に驕ることなく、皆、次なる目標に向かってすでに動き出している。
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保守的と言われていたカップ焼そば市場に風穴を開け、ヒット商品を生み出せたこと。20〜40代の女性という新たな市場を創造し、「こういう商品を待っていた」と喜んでもらえたことは当社にとっても誇れることですし、挑戦することを良しとする社風があったからこそ成し遂げることができたと思っています。(山川)

商品開発からの依頼をもとに麺を作るのではなく、自分が技術開発を手がけた麺をきっかけに、商品開発を動かし、新しい商品と市場を生み出せたこと。この技術は他の商品にも応用できるので、研究室自体の技術の底上げにもつながったと自負しています。(佐藤)